• 2014年9月17日

    2014年度 特選受賞作品

      選  『ガラス越しの叶わぬ恋』

     小野由子 (広島県  五十六歳)

     小野さま親子

     

     叶わぬ一目ぼれをして別れても忘れられず、その後偶然に再会を果たし、縁があって結ばれる。まるで一昔前の純愛小説のようだが、これはある帯と私の物語である。

     出会いは昨年の夏、広島市が主催した伝統工芸展の会場だった。金工、漆芸等の作品と共に展示されたその帯は、草木染のおおらかな絞りに手描きの辻が花が配され、その無垢な愛らしさに一目見るなり心が惹かれた。しかし、あくまでも「受賞作品」であり、ガラス越しでは触れることも叶わない。結局その鮮やかな茜色を「若々しすぎて私には無理」と、勝手にあきらめ口上を唱えていた。

     ところがその数ヵ月後、届いたある個展のDMに目を見張った。なんとくだんの帯が写っているではないか。程なく再会したその帯は、今度はガラス越しではなく、会場となった古民家の床の間に掛けてあった。スポットライトの元では明るい茜色に見えたのに、自然光では落ち着いた蘇芳色だ。しかも小さな値札を発見。もしかしたら手に入れることも夢ではないと思うと、急に胸が躍った。余程興奮していたのだろう、作家さんがにこにこしながら近づいて来られたので、今までの想いを一気に申し上げた。

     作家の野坂登喜子先生は、広島では染織の第一人者で、傘寿を過ぎた今なお旺盛な創作意欲を持たれた素敵な方である。

     さて、話が進むうちに、今度は先生とのあまりの縁の深さに驚いた。

     数年前に北欧での個展を企画したのが親しい友人だったばかりか、十数年前に亡くなられたご主人の主治医が夫の同級生であり、さらには数十年前にご結婚された折のお仲人が実家の亡き父の先輩だったなんて、偶然過ぎて出来過ぎだ。

     ああ、あの一目ぼれは必然的な出会いだったのだ、と心から納得し、帯を譲っていただくことになった。

     叶わぬ恋が成就したうえに、数十年来のエピソードを連れて来てくれた帯。締める度に楽しく幸せな気持ちにしてくれそうだ。

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