• 2012年7月13日

    2012年度 特選受賞作品 その2
    『化け帯』
    岡本 有未さん(岡山県)
    十二年前のクリスマス、私は藍染の浴衣と半幅帯をスーツケースに忍ばせて、ガラパゴス諸島へと向かった。
    日本を出てから2日後、ようやく南米エクアドル領ガラパゴス諸島に到着。ここから4泊5日のクルーズに参加する。100人以上は乗船できる大型船に乗船し、ガラパゴスにしか存在しない固有種の動植物を観察したり海で泳ぎながら諸島巡りをするのだ。
    ほば満員の乗客中、日本人は私を含めて2人だけだった。日本人から見ると秘境の地だけれど、欧米人からは日本でのハワイのような場所らしく家族連れも多い。船内設備も整っていて、不便さは感じなかった。
    ただ唯一頭を悩ませたのが、ディナーでの衣装だった。船では毎夜フルコースディナーが供される。ここでは日中着ているようなTシャツ短パンは禁止。でも全行程9日間の旅行では、荷物は極力減らさなくてはいけないから、ドレスを何枚も持参は出来ない。悩んだ末に私は、藍染の浴衣と半幅帯を持っていくことにした。
    ここで大活躍してくれたのが帯だった。たった1本の帯が化ける化ける。ある日は無地、翌日は反対の面で柄を見せ、その次の日は斜めに折って両面を見 せたりと、一つの帯が様々な模様を作り出す。
    柔らかく結びやすい西陣織の帯は、文庫でも貝の口でも、どんな結び方も美しく決まるので、毎日結び方も変えた。さらに飾り紐を垂らしたり、3分紐を締めて帯留めを飾れば、華やかなパーティー衣装に早変わり。
    これは乗船している欧米人からも大好評で、「エクセレント」とか「◯△…」(お褒めの言葉と思われる)などなど、賞賛の声をいただいた。着物姿を見たことのある欧米人は多くとも、たった一枚の布が様々に姿形を変え ることは新鮮な驚きだったようで、帯の結び方をわざわざキャビンに聞きにくる人もいた。おかげで欧米人とも仲良くなり、とても充実した楽しい旅行になった。
    この体験は、私に着物文化の素晴らしさを教えてくれた。日本人に生まれたことに誇りを持ちつつ、これからも海外に行くときには積極的に和服を身にまといたいと思う。
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