• 2012年7月13日

    2012年度 特選受賞作品 その1
    『桜と蝶』
    青木 茂(神奈川県)
    2000年の5月、私は会社の研修で十日間ほどニューヨークに出張していた。
    研修最終日の午後に、インストラクターのアレンからブルックリン植物園で開催されている桜祭りに誘われた。サヨナラランチをそこで食べようとアレンが提案してきたのだ。正直なところ連日の研修で疲れ切っていた私は、早くホテルに帰って、ひとりでゆっくりくつろぎたかった。だが折角の誘いを無下に 断ることもできない気弱な私は、泣く泣くアレンの車の助手席に乗って桜祭りに向った。
    ブルックリン植物園に到着した我々二人は車から降り入園した。日本庭園に着いた私は目の前の光景に目を奪われた。そこは昔、修学旅行で訪れた京都の寺社で見たような日本情緒あふれる建築様式や大きな池などの自然物で構成された芸術とも呼べる庭園だった。
    アレンと私は咲き誇る満開の桜並木を歩き、大きな池端にあった東屋のベンチに腰を落ち着けた。軽食をそこで摂るつもりだった。
    奥から着物を着た黒人のウェートレスが日本茶を運んできた。アレンが 「オー、ビューティフル」という歎声を上げた。私も彼女を見て驚きと共にあ る種の感動を覚えた。スカイブルーの地に鮮やかなオレンジ色の夕陽が左半身に柄入れされた着物。桜色に染め上げた帯には金色と銀色の大小の蝶の群れが飛び交っているという何とも奇抜な、日本でもお目にかかったことがない異彩を放つデザインだった。ただその着物と帯は彼女にとても良く似合っていた。輝く黒い肌と褐色の瞳がその着物と帯の柄を際立たせていた。帯の中から金と銀の蝶が今にも飛び出してきて青空に舞い上がっていくような躍動感があった。私が感動した原因は、着物も帯も日本人のものという枠を超えて、すでにそれぞれの国の特色を取り入れた文化に発展進化している姿を目の当たりにしたからだった。
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