• 2011年7月8日

    2011年度 特選受賞作品 その7
    『男の癖に・・・』
    原田 つとむさん(北海道)
    「男の癖に、こんな所にくるんじゃない」と、母に何度も叱られたのは、私が小学五、六年の頃だから、かれこれ五十年あまり経過したことになる。
    毎月末、日本舞踊や三味線の練習に来ていた芸者さん相手に、呉服屋が我が家の座敷で着物と帯を広げていた。当時私は、叱られても叱られても、その日が待ち遠しかった。芸者さんが着物の原反を肩に掛け、それに合う帯を当て、姿見に写しながら 微笑んでいるところが好きだった。
    今思えば、新しい着物や帯、普通の洋服でさえ美しい物を手にしたときは、誰でも自然に頬が緩んでいたのだ。座敷に広げられる着物や帯、それを簡単に巻き取る呉服屋の人、その口上や手際良さの一つひとつに感激した。子供ながらに大好きだった芸者さんが、あの帯がいいと思ったり、叱られつつ「あの帯は奇麗だね」と母に言っていた。すると、あの一言「男の癖に、云々」と、母の小言がでていた。
    その影響を受けた私は、装いで人を喜ばせれることが分かり、ファッションデザイン関係の仕事に就いた。とは言え、母に着物の一枚や帯の一本もプレゼント出来なかったが、二十年前に帰省した折、「お前が子供の頃に選んでくれた帯だよ」と、帯を一本見せてくれた。
    金糸銀糸で織られた御所車の柄だったが、まったく私には記憶が無かった。それから五年後、母は心臓疾患で亡くなり、遺品整理をしていた叔母から、母の筆跡で、畳紙に「つとむの分」と記された包みが届いた。紐を解けば、私が選んだらしい、あの御所車の帯と着物が奇麗に畳まれていた。その間に、幼い頃写真館で母と撮った写真が一枚挟んであった。
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