• 2011年7月8日

    2011年度 特選受賞作品 その5
    『帯が結んでくれたもの』
    中村 ちおさん(京都市)
    ひょんなことから仮絵羽状態の墨書きの訪問着が手元にやってきた。作家の方から「下手ですが心を込めて描きました」とお言葉まで戴いた。見事な枝ぶりに墨書きされた梅の花はその濃淡によってさらに着物全体の深みを増している。
    取引のある業者に仕立てをお願いした。個性の魂のようなこの着物をみて「帯が難しいねー」と言う。着物を着慣れた人が着こなせるような一品であると。
    母に相談した。齢七十になる母。昔から着物姿に割烹着。その姿に慣れ親しんだ私は今や母の箪笥を空にしている。「絶対にこれ」母には思い当たる帯が存在した。母が今の私くらいの歳から使っていた帯であり、今も大事に使っている帯である。外国の町並みを織り込んだような玉虫色一色の帯。そのモダンな帯は光によって味を変える。
    母が仕立てあがった着物を持って帰って来いと言う。着物と帯の組み合わせに頷く。なるほど長年の着物人生は嘘をつかないようである。後日、母が送ってきたその帯は桐箱に入れられていた。帯用の桐箱ではないことはすぐにわかったが、手にした私には母の想いが桐箱をして存在しているような気がした。「大事につかってね」その一言が添えられている。
    幼少の頃から見覚えのある帯が手元にある。こうして私が母の帯を使う。これが一番の親孝行なのだろう。この帯は離れて暮らす母を近くに感じさせてくれた。
    二年近く通った着付け教室の卒業パーティーの席に母のコーディネートで出席した。写真を送ってこいという母。友人に着物の経緯を説明し、帯を選んだ事を説明したのであろう。その場に居なくても手に取るように情景が思い浮かぶ。帯が結んでくれたのは私と母のお互いを想い合う気持ちかもしれない。
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