• 2011年7月8日

    2011年度 特選受賞作品 その1
    憧れの帯
    石井 ひろみ(愛媛県)
    私は十九歳の時、日本舞踊に出会った。職場の二階のホールで月に一度、教室が開かれることになり職場の先輩に誘われるままに習い始めた。だが先輩達は、すぐに全員辞めてしまった。私は日本舞踊の為に呉服屋で稽古用の着物と半幅帯を買い、そこで着付と帯結びを教えて貰ったのだ。辞めるわけにはいかなかった。
    少し厚手のしっかりとしたオレンジ色の半幅帯はキュッと心地良く締まり綺麗に羽を形付けることが出来た。その後、教室は近くのおばあさんの家に変わり私を含めて五人の生徒さんがいた。
    初舞台は地元の郷土芸能発表会だった。当日は総絞りの振袖に舞妓さんのような憧れの「だらりの帯」を結んで貰った。光沢のあるリバーシブルの袋帯でシルバー地と薄いピンク地でキラキラ輝いていた。成人式に買って貰ったものだ。早春の舞台にふさわしい「香に迷う」という曲だった。広い舞台の真ん中に立ち最初のポーズをして緞帳が上がるのを待つ。
    やがて私の緊張を和らげるかのように緞帳はゆっくりと上がった。静かな落ち着いた曲だった。いよいよ見せ場だ。舞台の下から数人のアマチュアカメラマンがレンズを向けている。一瞬のうちに右手で右の振りと帯の右に垂れている部分を一緒に持つ。左も同じようにして少し腰を落とし脇を締めてそれを左右で広げる。一、二、三のリズムで首を傾けながら視線を右、真ん中、左に移す。この時、私の中で膨らみかけた白い梅の花も優雅に舞っていた。初めて結んで貰った長く垂らした「だらりの帯」の感触も十分に楽しんだ。
    舞台を終えて楽屋に戻る迄、帯が揺れるのが嬉しかった。できることなら帰宅する迄、このままの格好でいたかったのだが次の出番に備えて、すぐに他の着物に着替える必要があり、とても残念に思った。
    今は私が着付の仕事に携わり特に成人式では帯の変わり結びをお客様に楽しんで貰っている。
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