• 2010年7月9日

    2010年度 特選受賞作品 その6
    『慶びの白寿の帯』
    高梨 理子さん(神奈川県)
    この春、母方の祖母が満九十八歳の誕生日を迎えた。数えでいうと、九十九歳、白寿である。かつては何十年間もお茶の先生をして、しょっちゅう着物を着ていた祖母だが、年をとって足腰も弱り、お茶を教えるのをやめてからは、着物に袖を通すこともなくなっていた。
    白寿のお祝い会をすることになり、いざ当日という数日前。母が急に、祖母に着物を着せてあげようと言い出した。そして、着付け役に指名されたのは、何と私。祖母の子ども達、孫達の中で、着付けを習ったことがあるのは私だけだったからだ。しかし着付けは去年習ったばかりだし、ひとに着せたことなんてない上に、帯の柄の位置も確認しないままの、ぶっつけ本番。本当に私にできるのだろうか。でも、せっかくの祖母の晴れの場。覚悟を決めて着付けに臨んだ。
    腰が曲がった祖母の体に着物を着せるのは大変だったけれど、何とか整えて帯を手に取る。金茶色の地に、おめでたい松と鶴の柄。白寿のお祝いにふさわしい袋帯だ。柄出しの加減がわからないので、おそるおそる巻いていく。祖母は手押し車につかまりながら、何とか立っている。時間がかかると負担をかけるので、えいやっと思い切ってお太鼓を作ったが、微妙にぴったりの柄の場所が出ない。一瞬、巻きなおそうかと思ったが、これ以上、祖母を立たせておくのは申し訳なく、帯締め
    と帯揚げを結んで着付けを完成させた。
    もうちょっと上手くできると思ったのになあ、と反省しきりのままお祝いの会が始まり、最後に全員で集合写真を撮ることになった。着物を整えてあげようと祖母のところに行くと、祖母は私の顔を見てニヤリと笑った。
    「ありがとうね、あやちゃん」
    ああ、祖母も久しぶりに着物を着て袋帯を巻いて、しかもそれを着付けたのが 孫娘で、本当に嬉しかったのだ、と感じた瞬間だった。
    おばあちゃん、今回は着付けが下手でごめんね。もっと練習して、百歳のお祝いには帯の柄出しも完璧にして、綺麗に着せてあげるよ!
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