• 2010年7月9日

    2010年度 特選受賞作品 その5
    『南に思いを』
    小倉 マリ子さん(東京都)
    黒にピンク、深紅に青、そしてレンガ色にベージュ・・・。組み合わせはいずれも艶やかで金糸がからめてある。この絹地はどれもカンボジアからのものである。私はこの布に魅せられ、友に依頼して帯に仕上げてもらった。幾何学模様と花柄が絶妙な広がりでモダンに散りばめられている。
    遠い異境の国の女性たちが織り、刺した布は、どんな生活の中でどんな人達が作ったものだろうと興味が湧き、想像がふくらむ。異国独特の風情を漂わせる。
    時代を逆上れば第二次世界大戦中、もしかしたら戦場と化していた土地かもしれない。私の叔父達も出征し、うち一人は「石」となって祖母の元に帰って来た。この布を通して忘れていた記憶をたどる機会にもなった。何か深い縁とつながりを感じ、不思議となつかしさがこみ上げる。
    趣味の茶道で帯を締める機会の多い私は、この帯が気に入りよくしめる。友達から珍しがられ評判がよい。着物との相性も大変いいのである。形や締め方は異なるけれど洋を問わず「帯」は世界中で使われているように思う。腰に締めると気持ちまでしゃきっとして心改まる。私の帯は、洋服のそれでは味わうことのできない心地よい緊張感すら与えてくれる。
    茶会に参加する時は、努めて着物で、と考え実行している。茶事では、ゆうに三〜四時間はたたみの上で立ったり座ったり
    して楽しい時を過ごす。そんな時に帯は体を支え、姿勢を保ってくれるのである。まるで腰痛向けベルトのように。
    役割を終えた帯たちは、手提げや巾着にして現役である。和服にも洋服にも合い、適度な高級感すら持つ。オンリーワンの宝である。これからも帯のすばらしさを求め続けていきたいと願っている。
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