• 2009年7月10日

    2009年度 特選受賞作品 その5
    『帯よ。』
    津曲陽子さん(東京都)
    帯よ。
    どうしてゆるんでしまうんだ?
    きつめに結んだのに。
    なぜなんだ?20回くらい練習したのに、まだ緩む気なのか?
    おばあちゃんやお母さんに結んでもらう時にはずっときつく保っているのに。
    なぜ私には従ってくれないのか?私の経験がないから?でも努力は認めて欲しい。
    これからは私一人で締めないといけないんだから。
    もうおばあちゃんの助けもお母さんの助けも借りれないんだから。
    親元を離れて、海外で初めて自分自身の力で帯を結ぶ。
    ちょっぴりえらくなった気分がする。
    誰も帯が結ばれる様子なんて見たことがない。
    みんな驚いたように私の帯さばきを観賞している。
    すこしばかり帯も緊張しているようだ。
    私はそんな帯を勇気づけるようにしっかりと結ぶ。
    絶対にゆるむなよ。
    日本人としての誇りがあるんだから。
    帯としての誇りも忘れるな。
    完成した帯はきっちり結ばれたように思われる。
    私は日本人になった。
    ちょっと気取って歩いてみる。
    まるで芸者にでもなったかのような感じだ。
    しかし、少し経つと帯が私から離れていく感じがした。
    ちょっと不安になった。帯よ。なぜ緩む?
    帯としての誇りはどこだ?
    今私はただの十八歳の子供じゃない。
    今の私は一日本人なのだ。
    帯を結んでもらう時のあの引き締まった感触。
    その感じはなぜだか私に安心感を与える。
    日本人としての経験を長年積んだおばあちゃんやお母さんの手は魔法のように帯を操る。
    帯はとっても従順だ。
    私は未だにあの感触をつかんだことはない。
    帯はまだ私を一人前の日本人として認めてくれないのだ。
    でもいつか必ず、帯がきつく締まる日が来る。
    その時私は立派な日本人になるのだ。
    でも、帯よ。
    あんまり急がないでくれ。
    その日はまだ来てほしくない。
    私がお母さんになったら、子どもの帯を結び、
    そしておばあちゃんになったら、孫の帯を結ぶのだ。
    その日が来るまではまだ子供でいよう。
    帯よ。緩んでくれ。
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