• 2009年7月10日

    2009年度 特選受賞作品 その4
    『恥ずかしさ半分、うれしさ半分』
    細江美幸さん(岐阜県)
    少女は曾祖母が嫌いだった。健康で達者なのは申し分ないのだが、あれこれと口を出すのがたまらないからだ。やれその派手な服はなんだとか、やれ女性はもっと淑やかにだとか、そんな娼婦みたいな格好はなんだとか、時代遅れなことばかり言う。
    「お祖母ちゃんの時代はそうだったかもしれないけれど、いまは違うの。これが流行っているの。だから口を出さないで。」
    言った直後は「へえ、そんなものなのかい。いまどきの若い者は」と感心するが、しばらくすると忘れてしまって、また同じ口出しをするからほとほと呆れてしまう自分がいた。ときに鬱陶しく感じられる曾祖母の存在は、少女をいらいらさせる理由の一つでもあった。
    成人式が近づいてきた。振り袖を母親が用意してくれたものの、肝心の着物の着方がわからない。特に帯の締め方が。困った少女に母親から助け船が出た。
    「ひいばあちゃんだったらできるかも。昔から着物を着ている人だから。」
    それだけは勘弁して欲しいと少女は言った。が、他にあてがない。
    仕方なく少女は母親を通して曾祖母に着物の着付けを頼んだ。
    「わかった。けれどその代わり、私のやり方にけちをつけないようにあの子に言ってやっておくれ。」
    曾祖母はそう言った。少女は納得できなかったが、妥協して条件を飲んだ。せっかくの振り袖を着られず、出席できない成人式よりは、妥協してでも振り袖を着て式に出たかった。ただそれだけの理由だったが。
    成人式当日。曾祖母の手を借りて着た少女の着物は周囲から絶賛された。同時にその巧みな帯の締め方も。
    「だれがやってくれたの。この締め方」と問われると、少女は恥ずかしさ半分、うれしさ半分の表情で「ひいばあちゃんがやってくれた」と答えた。少女はもちろん私である。
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