• 2009年7月10日

    2009年度 特選受賞作品 その3
    『百年前の丸帯』
    小林美智子さん(北海道)
    義父も義兄も亡くなり、住む人のいなくなった亡夫の生家を取りこわすことになった。
    米穀店をしていた義父が大正の初め頃に建てたこの家で男三人女三人の兄妹が育ったが、今は女が三人しか残っていない。
    母屋の裏に納屋があり、古い家具などが並んでいる。黒塗りの鉄の金具つきのタンスがある。祖母の嫁入りの時のものだという。
    開けてみると几帳面な義父らしく、毎年の年賀状や古い手紙が束になって入っている。子供達の絵や成績表もあって、夫が生きていたら懐かしがっただろうと残念だった。
    一番下の抽出から黄色い布に包まれた帯が出て来た。長年しまいこまれていたらしく、カビ臭いが金銀の色も鮮やかな丸帯だった。
    空を流れる瑞雲に鳳凰が舞い、白銀の甍を輝かせた楼閣の回りには山水の庭園があり、四季の草花が色とりどりに咲き乱れている。その鳳凰は一段ごとに金糸と緑色の二色に織り分けてある。帯幅は今の袋帯の倍はあって、昔の童謡にも歌われている『金襴緞子』の見事な丸帯なのである。
    義妹の記憶では祖母の嫁入りの時のもので母親もなんどか締めていたという。
    祖母クネは慶応元年の生まれだから、この帯は百年以上も昔のものらしい。折り目がすり切れていて残念だが帯としては締めれない。
    「勿体ないけど、切って佛壇の打敷を作って兄妹や親戚に配ったらどうかしら」
    私の思いつきに皆が賛成してくれて若い姪が縫製を引き受けてくれた。百年前の祖母の丸帯は形をかえて兄妹達の家に届けられた。
    夫の仏壇に打敷をおいて手を合わせていると夫の家の歴史が甦ってくるようだ。
    丸帯の金銀が燈明に眩しく輝いている。
2009年7月
    7月 »
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

アーカイブ